SS「研究員の一日」


「あつーい!!」


「班長、言葉にしたら余計、しんどいだけですよ」


 そこは地獄の鍋の国であった。いや、正確に言うならば地獄の研究室であった。鍋の科学研究の中でも実行班。実際に鍋を作り、栄養素等の栄養に関する調査、鍋の民特有のアレルギー反応検査、調理した後の食材の化学反応や性質の変化の調査を行う実行部隊の研究室である。


 話は変わるが、鍋の国は南国である。そして熱く煮えた鍋、鍋、鍋。研究室の温度は急上昇、熱上昇。まさにサウナ、汗ダラダラなこの場こそまさに灼熱地獄。調査の終わった鍋は別室へ移動するので冷めた鍋はここにはない。研究員は時間交代で別室の休憩室を使い適度に小休止を取る決まりとなっており、実際に休憩回数は多い……が、それでも叫びたくなる事だってある。だって人間なんだもん。

「あつーあつー」

「班長、次がラストですよ、どんまいです」


 班長と呼ばれる女性と違い、助手の男の子はあつい? なんですかそれとばかりに平然……いや、むしろ色々な鍋のにおいに幸せそうな顔をしている。暑さ、熱さに強い子なんだね。というか、むしろいい匂いで一人天国状態とも言う。

「……次は、ああ、外国の食材を使ったお鍋ですね」

「あつー……いけど、なんか珍しそうね」

 助手の言葉にちょっと反応する班長。医療鍋、そして鍋の科学研究部隊に志願する女性である。そりゃあ、目新しいもとい、美味しそうな鍋と聞けば、気にもなるのだろう。この時ばかりはあつさも忘れて鍋を直視。

「報告書によると、人の形質を保つのに効果があったと言われている食材を使った鍋料理のようですね」

「ああ、確か『暖炉の前で笑いの絶えない家族の食事』とか『クッキーを皆で作って試食』とか書いてある報告書だっけ? あれって皆でワイワイガヤガヤ楽しんで食べると美味しいし、気持ちにもゆとりができるよって報告書じゃなかったの?」

「……班長、そういう側面もあるかもしれませんが、しっかりと科学的根拠もあるしっかりとした報告書なのですよ。
まぁ、病は気からといいますし。そういった面もないとはいいませんが、それは置いておきましょう。私達が調べる方法は科学、医療方面としての調査・研究です。美味しく頂く鍋についての研究は後日です」

ググっとにぎりこぶしを見せつける助手。しかししかーし、目線は鍋の方に注目。もっとも班長もにぎりこぶしなんか見ないで鍋を直視しているのでなんら問題はない。

「はいはい、後で美味しい鍋の試食天国祭りが待っていると思うと今の暑さ地獄も我慢できるしね、さぁ、始めるわよ」



「まぁ、休憩時間ももうすぐですし、がんばりますか」


 調査研究に使用した食材は、特に問題が見られなかったため、スタッフが後(休憩時間)で美味しく頂きました。



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