研究機関と新法律
鍋に関する調査、研究は鍋の国の食材のみではなかった。そもそも鍋の重要素材である白菜からして外国から輸入しているという事実がある。他国の食材、料理についても合わせて研究を行う必要があった。また、研究目的であるアレルギーが森国の砂と鍋の民との相性というのであれば、治療方法に置いても鍋の国に拘らずに他国の食材を含めた上での研究が必要であるとも考えられた。 研究については人の形質から外れるという問題があまり発生していない国についても調査が行われた。各国から研究報告書なども取り寄せ、他国の関連研究員との手紙のやりとり、場合によっては直接会いに行くこともあった。 ◯他国との食文化の違い アレルギーによる人の形質が外れる問題は鍋の国国民と森国の砂との相性であった。ならば、問題の解決も鍋の国の食材ではなく、他国の食材による改善ができるのではないだろうか? 単純といえば単純、極論といえば極論である。しかし、鍋の国の民と森国の砂との相性でアレルギーがおこり、状態が改善されるような食事療法は発見されていない。そういった意味では外国へも視野を広げ、食材の研究を行うという考えは決して悪いものではなかった。 鍋の国と外国との食文化の大きな違いとしては他国では食用としないモノを鍋の国で食材として使用しているという点があった。これについては食文化であり、伝統である。 しかし、その国で流行している病の原因が主食の摂り過ぎや、特定の栄養を摂取できず、バランスを崩していたのが原因であるといった事はありうることである。他国の食材の栄養素はもちろんの事だが、食べ合わせる際の相性やその国の食事と病との関係性等の研究が行われた。 また、森国の砂でおこったアレルギーのように鍋の民との相性も考えられた。他国で一般的に使用される食材を使った食事を続けてみるといった研究も同時進行で行われた。 ![]() 研究の結果として、他国で食用されない食材を使わない、つまり(他国観点での)一般的な食材を使った食事を摂り続けることにより、人の形質が戻る、保てる事が判明した。 これは形質変化の治療を行う場合、長期間の食事療法が必要になるという事ではあるが一つの解決策への道が開かれた。以前国内で、子供が普通の人として産まれてこなくなったとき、妊婦の食生活を一般的な食材を使用した和食に徹底したことで子供が元気に生まれてくるようになった事例もあることから、確実性の高い結果といえよう。 そして、他国で食用とされない食材、そして食材ですらないモノを使った食事を続けると人の形質から外れる可能性が高いという事も、研究の結果判明した。 鍋の国政府はまず、研究結果を発表した上で、人の形質を外れるものは食べてはいけない、という、食に対してひとつの線引きとなる法律を作った。 しかし、だからといって鍋の国の食文化、伝統をないがしろにするわけにはいかない。これまで食べてきたモノがいきなり食べちゃダメと禁止されて「ハイ、そーですか」などと簡単に納得できるものではない。 そこで、人の形質問題から見て普通に食べても良い食べ物や食べてはダメな物、食べてもいいが、取り過ぎると形質が外れる可能性がある物など、従来の食材を細かくカテゴリーを作り、随時、食材をカテゴリーに分類し始めた。 これは、食材を分類し、国民一人一人が納得した上でそれぞれが食べる食材を選び、食する形に落ち着かせる為の準備である。自分の身体の事でもあり、最終的な判断はそれぞれの判断に任せるという形ではあるが、いきなり食べちゃダメで納得できるはずもなく、しかし、このままでは形質が外れる一方であるという事の折衷案と言えたかもしれない。 もっとも、鍋の国政府は今回の問題が重大である事を考え、食材分類に関する法律を制定する事に踏み切ったのである。 /*/ そして食材のカテゴリーとしては下記の四種類のカテゴリーに分けられた。 【政府安全保証食材】 政府の専門機関の検査により安全であると保証した食材類。このカテゴリーの食材のみを使用した食事を長期間摂り続ける事で人の形質から外れた人達も人に戻れるという研究結果が出ている。主に万人の共通認識である食材、食品。 【通常食材】 安全保障食材程ではないが、問題のない食材。人の形質問題的には摂取制限をする必要はない。 地域によっては食べられることもある食品、食材。一般的に無害、あるいは無毒化が可能な食材。 【摂取量制限品】 数多く摂取すると人の形質問題に引っかかるモノ。年間摂取量を制定し、それ以上の摂取は控える事が推奨される。 食品項目としては一般的には食材ではないが、鍋の民が食べて消化できる存在が挙げられる。 【注意喚起品】 摂取するだけで人の形質が外れる等の重大な問題を引き起こす可能性が高いモノ。 本来、非食材な存在・物質であり、別用途として使用、加工、配置されたりもする。 上記のカテゴリーはわかりやすいように食材の包装紙等への食品マーク表示が義務づけられた。これはスーパー等で購入する際に消費者にとってわかりやすい目安をつけるためのものである。また、食材を調理して提供する中食、外食産業にはメニューや店頭での料理に使用した食材カテゴリーの表示義務が義務付けられた。 しかし、食材は日々増えていくものであり、輸入が増えれば新たな食材も増える。新たな品種が生まれる事もある。その為、食材を研究しカテゴリー分けする機関として鍋食研究機関「ナベ研」を設立。日々食材のカテゴリー分けを行うのはもちろんであるが、それだけでなく、鍋の国の食材の明日を考え、研究を続けていく機関である。 一般家庭においてもどの食材がどのカテゴリーに入るかを確認できるように政庁や集会所、図書館などの公共施設にカテゴリーブックが置かれるようになった。また各家庭にもカテゴリーブックが配布されるようになった。このカテゴリーブックはナベ研が日々更新した情報を毎年一回、配布する事により、国民がより新しい食材情報を知り得る事ができるようになったのである。 また、カテゴリー分けにより形質問題に発展すると分けられた「摂取量制限品」と「注意喚起品」に対しては年間摂取量の表記はもちろんではあるが、特に未成年や妊婦、ご老人のように抵抗力の弱い人が食するのは好ましくない。その為、酒、タバコのように未成年に対しては摂取禁止法を制定。食べると重度の形質問題を起こす食材に関してはその害を納得した上で購入してもらう為に食材警告表示を義務付けた。 この法律は公知期間が必要と考え、研究内容発表による公知、食材カテゴリーブックによる情報公開、食材表示義務、未成年摂取禁止法、食材警告表示といったように段階を踏み法律を制定させた。これは情報の共有化とともに危険性を国民に把握してもらった上で納得してもらい、協力して改善していく必要があった為でもあり、鍋の国の食事文化を尊重した結果でもある。 しかし、もう一つの難題があった。それもまた鍋の国の文化の一つ、人の葬儀である。 前記の法律だけでは、形質変化やその害を納得した上で食べてしまった人を葬儀で食べることにより、食べた人も人の形質から外れてしまうという問題が残っているままだった。鍋の国民は、食べて弔われたいという気持ちがある。繋げて行きたいという気持ちもわかる。しかし、このままでは人々の形質は外れ、元々の鍋の民が失われていくのも問題である。 そこで、人の形質が変わった人の弔いについては政府が下記のような折衷案となる規定をたてた。 ◯食葬可 60歳前後以降の人 これから子供を残さない、残せない人 ◯食葬不可 子供を作る予定の人、子供を作れる人⇒食べる以外の別の形式で弔う(火葬、土葬、樹木葬など) もちろん、不満を出す国民もいる。しかしこのままでは人の形質を外れていくと鍋の民として継続していく事ができず、「鍋の民」自体が失われ、今まで継続してきたものが無くなってしまう。鍋の文化と鍋の民の行く末、どちらも失うわけにはいかない尊いものである。政府はどちらも失うわけにはいかない大切なモノであるとし、今回の法律規定の内容として本来は規制するべき箇所ではあるが、折衷案として規定した事を発表。国民に理解と協力を求めたのである。 政府の取り組みやメディア展開の影響を受けて、国民の中では食生活の見直しを意識する人が増えてきた。 人の形質が変わったことで、食べ物に困る事態になったという事件も影響しているのかもしれない。 変わったものは色々食べてきたが、美味しいかといえばそうでないものも多かったのである。 そう、折角食べるなら美味しいものを、人として、美味しく食べ続けていきたいと。 次のページへ>> |