鍋の大規模科学研究発表後の鍋の民の生活の変化


 鍋の大規模科学研究により、食事の改善が行われた。その発表は驚きとともに迎えられた。科学研究という根拠のある発表であるという事、そして改善策としてのカテゴリーブックによる食材の区分け。カテゴリーに分けられたレシピの販売により、未来ある子供達へ継承できるようになった事もあり比較的反発も少なく、国民は受けいれることができた。そして、鍋の民にとっての最重要項目である「食事」についてある変化が生まれたのである。



 食育。
健全な食事をする事ができるようになるその為の知識や教育。特に小学校などの低年齢の段階からカテゴリーブックや食べ物についての授業が行われるようになった。食品の表示内容の説明や調理実習などの授業である。以前にも家庭科といった授業で料理実習を行う事はあった。しかし鍋の科学研究と新しいカテゴリーブックを使った食材の区分けを重要視する国民達へ伝えるのは最重要課題であった。説明会はもちろんであるが、低年齢段階においての教育も重視された結果。以前よりも食事、特に料理に対する国民の認識が変わってきたのである。


 そしてカテゴリーブックによるカテゴリーで食材が区分けされた事により、「縛り」が生まれた。安全な食材だけで作る料理といったカテゴリーを重視した料理である。また食育により今までよりも安全なだけでなく、身体と健康を考えた栄養バランスを考慮した料理を食べるという選択肢もある。
前記では「縛り」と例えたが、これは鍋の民にとっては料理への「挑戦」である。新しいカテゴリーを受け入れても美味しい、安全、栄養バランスの良い料理が食べたい。それは鍋の民の情熱であり、趣味であり、生きがいである。


 幸いな事に、鍋の大規模科学研究のカテゴリーブック等の発表に合わせ、政府はカテゴリー準拠のレシピ本の出版や料理番組への情報提供を行った事により、スムーズに普通の食材で作る食事の生活に国民は慣れた。そして挑戦が始まったのである。


 鍋の民がレシピ本や料理番組の料理を作るだけで満足するのか? 否。自分独自の料理、それぞれの家庭の味を作り出してこそが鍋の民である。そしてオリジナルレシピを披露する時、美味しく頂きながらやはり、料理の話が出る。

「この料理、醤油ベースで煮こんでも美味そうだ」

「御飯の上にのせて、丼風もいいんじゃね?」

料理を食べながら料理の話をする。こんな楽しい事はない。食事の間の話題は尽きることなく続くのであった。なぜなら、食事の話題以外にもファッションの話(3割は眼鏡の話題)、王猫様や猫士のかわいさメロキュン談義、だれそれが恋をした、今日の出来事から流行の話題などのちょっとした話題から別の話題へと話が変わる。
親しくなれば話す事は尽きない。鍋の食事は交流の場でもあるのだ。

そんな鍋の民の料理への情熱は学校で料理実習を行った子供達にも別の形としてあらわれた。調理実習の結果を家庭に持ち込むのだ。今日学校であった事として話す者もいれば、美味しかったと母親にリクエストする者もいるだろう。意欲のある子供は今晩の食事当番に立候補する事になる。そんな子供が作った料理を食べながら一家団欒を過ごす。そしてその食事で伝わった新しい知識、レシピが別の団欒の機会にお披露目される。





 そんな新たな食生活を送っていると、ある変化が生まれた。
それは食事の量である。

以前までは比較的よく食べる、あればあるだけ食べると言われていた鍋の国民だったが、少しだけ食事量が減少傾向になったのである。
(ただし、他国の一般国民規準からしてみればまだ標準以上の量である)


これには、以下の要因が考えられている。


食育の普及により、適量の良さの知識も広まったこと。同時に、よく噛んで食べることが浸透したこと。

食卓での話題が以前より広がりをみせたこと。特に食べ物に関する話題は内容に変化があった。
食卓にある料理に使われている食べ物が身体にもたらす栄養などの話題が、勉強にもなり楽しいこと。
普通の食材で作る新しい料理レシピの話で盛り上がったり、子供がいる家庭では子供の調理実習や学校の話題がそれに加わること。

加えて、普段から交わされていた眼鏡語り、王猫様メロキュン、コイバナ、自分や相手がその日1日感じたことなど、挙げきれないほど話題は尽きない。
そんなゆったりした長時間の食事の団欒。


いくつかの要因が重なり、こうして尽きることのない話をすることにより、話して食べて、 ゆっくり食事をするという食事環境になってきたことで、実際に食べる量が少しだけ落ち着いたのである。


これは鍋料理だけでなく料理を愛する国民性とカテゴリーブックにより新しい料理を生み出す必要性。そして、以前より口にできるものは減ったものの、安全な食材を駆使し健康的に、いかに美味しい料理をもっと食べたい・作りたいという情熱。
そして、新しいレシピの話題を食事の場で行う機会が増え、他の話題もその場で行うことも増えたという事から生まれた新しい食事環境である。
国民達はソレと意識はしてないが、皆で食事をとる場は普段から「誰かに記憶や想いを伝える絶好の場」として機能し、新たに鍋の民のいわゆる継承場としても機能したのだ。


一度に食べる量が減った……という意味では、この傾向を残念がる者もいるかもしれない、 しかし、だからこそ、日々の食事を大切にし、今夜や明日のご飯は何を食べようかと思案する事を楽しむ事ができる。
鍋の大規模科学研究により生まれた食材のカテゴリー分け、そして伝え方の変化は、こうして鍋の国の新たな食文化を生み出したのである。



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